奈良の死産事件の報道が続いています.
受け入れを断った病院が悪い,奈良医大には空きベッドがあったのに!という論調が目に付きますが,奈良医大には本当に受け入れる余裕があったのでしょうか? 搬送依頼があった夜の状況の詳細が奈良医大のHPに公表されました. 奈良医大HPより 今般の妊婦救急搬送事案について http://www.naramed-u.ac.jp/~gyne/2007.08.28.html 去る8月29日、救急搬送中の妊婦さんが不幸にも死産にいたりましたことについて、誠に遺憾に感じております。 今回の事案につきましては、マスコミを通じて、さまざまな報道がなされておりますが、当病院の産婦人科における8月28日から29日にかけての当直医師の勤務状況や当病院と救急隊とのやり取りについて調査しましたので、その結果を公表いたします。 平成19年8月28日の当直日誌記録より (産婦人科当直者 2名) 時間 対応内容 8月28日(火) 夕方から抜粋 19:06 妊娠36週 前回帝王切開の患者が出血のため来院、診察後に帰宅 19:45 妊娠32週 妊娠高血圧のため救急患者が搬送され入院、重症管理中 09:00~23:00 婦人科の癌の手術が終了したのが23:00、医師一人が術後の経過観察 23:30 妊娠高血圧患者が胎盤早期剥離となり緊急帝王切開にて手術室に入室 23:36~00:08 緊急帝王切開手術 00:32 手術から帰室、医師一人が術後の処置・経過観察をする。重症のためその対応に朝まで追われる。妊婦の対応にもその都度応援する。当直外の1名の医師も重症患者の処置にあたり2:30ごろ帰宅 8月29日(水) 02:54 妊娠39週 陣痛のため妊婦A入院、処置 02:55 救急隊から1回目の電話が入る(医大事務当直より連絡があり当直医一人が事務に返事) 「お産の診察中で後にしてほしい」、そのあと4時頃まで連絡なし 03:32 妊娠40週 破水のため妊婦B入院、処置 (これで産科病棟満床となる) 04:00 開業医から分娩後の大量出血の連絡があり、搬送依頼あるが部屋がないため他の病棟に交渉 04:00頃 この直後に救急隊から2回目の電話が入る 「今、当直医が急患を送る先生と話しをしているので後で電話してほしい」旨、医大事務が説明したところ電話が切れた 05:30(病棟へ) 分娩後の大量出血患者を病棟に収容 (産科満床のため他の病棟で入院・処置) 05:55 妊婦Aの出産に立ち会う。その後も分娩後出血した患者の対応に追われる 08:30 当直者1名は外来など通常業務につく、もう1名は代務先の病院で24時間勤務につく 嵐のような一晩です. 朝9時からやっていた婦人科の手術が終わったのが23時. 重症の母体搬送を受け入れ→緊急帝王切開. 陣痛・破水による入院2例(うち1例は出産). 分娩後の大量出血の母体搬送受け入れ(しかも産科満床のため他病棟で管理). 当直医の先生方は当然「夜勤」として夕方から働き始めたわけではなく,28日の朝から通常通りの勤務をし,この一晩を上記のような慌ただしさで過ごし,なおかつ29日の朝からまた通常勤務,あるいは代務先の病院で24時間の勤務に入られています.この状況では仮眠すらとれていないのでは…? マスコミはこのような状況でも,それでも受け入れるべきだったと言うのでしょうか. しかも『妊娠24週』と判明したのは児を死産してからで,搬送当時の情報は『妊娠3ヶ月の流産』程度だったはず(各社報道も最初は『妊娠3ヶ月』となっていましたよね).妊娠3ヶ月の頃の流産だとすれば児側の要因であることが多く,医療が提供できることはほとんどありません.緊急度としてはかなり低い. もしこの妊婦さんを受けれいれていたら,その時点で奈良医大の産科病棟は満床です. 今度はその次の妊婦Bさんや大量出血後の妊婦さんの受け入れ先を探す必要がでてきたことでしょう.もしかしたら間に合わず,今度はそちらが『たらい回し』とニュースになっていたかもしれません(っていうかなったでしょうね,きっと), 何度読んでも胸が苦しくなるような夜の状況ですが,この日が特別に忙しかったというわけではなく,この先生方はこうやって奈良の産科を支えていらっしゃったのでしょう. そして多分これは奈良だけではなく,全国の産科の先生方の現状です. #
by sui-m
| 2007-09-01 08:38
| 医療
奈良の事件の報道が続いていますが….
2ちゃんねる 既婚女性板より. 【また】胎児搬送先で死亡確認【奈良】 274 :可愛い奥様 :2007/08/30(木) 18:52:37 (p)ID:NOBS/W2P0(20) こんな報道はないのでしょうか. #
by sui-m
| 2007-08-31 09:56
| 医療
既にあちこちの医療系Blogで取り上げられていますが….
奈良から大阪に女性を搬送中の救急車が交通事故に遭った件です. 報道各社の見出しはこのようになっております. 10ヶ所も打診しなければ受け入れ先が見つからなかったことを前面に出してる記事もあれば,交通事故を前面に出している記事もあります. 毎日新聞の第1報は相変わらず「たらい回し」と言っていたようですが, あっという間に変更されました. 857 名前:卵の名無しさん[sage] 投稿日:2007/08/29(水) 12:20:02 ID:0V5RE0it0 毎日新聞はどうしても『たらい回し』が使いたいんでしょうね. しかも『周産期医療の救急体制の不備』 を指摘した記事を書いています. 大淀病院事件で自分たちが行った報道については知らん振りですか. さて,今回の件を時系列でまとめてみました. 午前2時45分頃 奈良県橿原市の女性(36)が橿原市内のスーパーマーケットで買い物中、出血を伴う腹痛を訴え、知人の男性が119番通報. 午前2時55分頃 救急車に女性を収容. 救急隊員が同市内の県立医科大学付属病院に受け入れを要請したが手術中で対応できず,大阪府内の病院に打診したが受け入れ先は見つからず. 午前4時20分頃 高槻市内の高槻病院(10箇所目の受け入れ要請先)にむけて出発. 午前5時頃 救急車内で破水(流産と書いてある記事もあり) 午前5時10分頃 大阪府高槻市富田丘町の国道171号交差点で搬送中の救急車と軽乗用車が出合い頭に接触. 搬送を引き継いだ高槻市消防本部の隊員が高槻病院に流産したことを伝えたところ,「既に流産したなら処置は難しい.緊急手術も入っている」と断られたが,大阪府内の2病院に受け入れを断られたため20分後に再び高槻病院に受け入れを要請. 午前5時46分 高槻病院に到着.妊娠3か月で、すでに流産していた. その他,あちこちのニュースを読んでみてわかったことは ・通報の内容は「妊娠の可能性がある女性が下腹部から出血している。彼女には流産の経験がある」だった. ・かかりつけの医者はいなかったらしい。 ・毎日の初期の記事では妊娠20週とされていたのに,他の記事では妊娠3ヶ月となっている.(どっちがホント?) ・事故による容体の変化は見られなかった 妊娠3ヶ月(あるいは20週)の特に誘因もない突然の腹痛と出血とのこと. もっと早く搬送先がみつかっていたとしても,交通事故がなかったとしてもおそらく流産を止めることは難しかったのではないかと思います. お子様をなくされた妊婦様には心よりお見舞い申し上げます. 毎日新聞だけでなく,他の新聞でも 『搬送先がみつかるまで10箇所もかかった!』とか『搬送先がみつかるまで1時間半もかかった!』,『搬送先に到着するまで3時間もかかっている!』となかなか搬送先がみつからなかったことが問題だ,という論調のものが多い気がします. 緊急手術中で断った県立医大についても『3回も断った!』と強調している記事がありましたが,じゃあ緊急手術を中断しろとでも言いたいのでしょうか. どんどんお産を取り扱う病院が減っている現在,今回のような事例は今後増えることはあっても減ることはないでしょう. 毎日新聞は毎回毎回『たらい回し』って書くんですかね. #
by sui-m
| 2007-08-29 20:12
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